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vol.2 奈良田盆踊り 復活プロジェクト

vol.2

固有性の高い民謡と踊りが継承されていく意味

奈良田盆踊り 復活プロジェクト

▲昭和43年、伊勢神宮奉納 全日本民謡大会にて

家族5人で奈良田へ移り住んだのは、2017年春のこと。

夫婦はそれぞれ東京、神奈川の出身です。

 

ここへ移住する前、僕たちは愛媛の片田舎で8年暮らしていました。終盤の数年間は、地域の環境問題・エネルギー問題と向き合うことに。その中でもう一度、自分たちの「暮らし」を見つめ直し、「子育て」から考え直したいと思うようになりました。

 

この地に再移住を決めた僕たちの「暮らし」を、リアルタイムで綴ります。

 

文とイラスト:上原佑貴

 
 

秘境・奈良田に伝わる、独特な民謡と踊り

 

僕たち家族の住む奈良田(ならだ)は、南アルプスの山々の急峻な谷を流れる富士川支流・早川の最上流域の集落。その地形ばかりでなく、数々の伝説や独自の風習から、「秘境」とも称されてきた。そんな風習のひとつ、独特な民謡と踊りは、結婚式などのハレの場、集落での集まりとなれば、自然と演奏が始まり、その場にいる者は踊り出す、そういうものであったという。各家庭には手作りの三味線のある、曲物職人が暮らす良材の産地であった。

▲奈良田の民謡は、曲げ物を売りに出向いた地域から持ち帰ったものだという説もある

しかし近代から続く過疎高齢化の影響で、風物詩だった盆踊りも、年中行事としては途絶えて40年近くにもなる。

 

 
 

 

近年、みるみる活気を取り戻している白樺会

 

民謡と踊りの保存・継承を担ってきたのは、地元で設立された「白樺会(しらかばかい)」。グループの高齢化が進む中、近年では奈良田を出身とする町外在住者との協力体制が定着し、活発化している。2017年には定番の「奈良田追分」が日本フォークダンス連盟によって〝日本民謡8選〟に選定され、白樺会はこの「奈良田追分」を演目に、同連盟主催の全国日本民謡講習会への指導者としての参加要請を受けた。

僕たち家族は、この全国講習会への参加に向けた、奈良田や町外在住出身者との合同練習が始まるころに移住してきた。連れ合いの若菜と長女・梅音は、まだ右も左も、唄の節も踊りの足運びも知らぬところから猛練習し、本番出場を果たした。

 

▲2017年には「奈良田追分」が日本フォークダンス連盟による〝日本民謡8選〟に選ばれ、白樺会は講習会の指導者としての参加要請を受けた

 

奈良田在住者と町外在住出身者、Uターン・Iターンの若手移住者が力を出し合った日本民謡講習会への参加は、関係者を大きく勇気づけたと思う。『奈良田盆踊り復活祭』は、そんな機運の中で生まれた企画。僕はその企画発起人の一人である。

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〝奈良田らしさ〟を活かした地域づくりとは?

一方で、奈良田は大きな転機を迎えている。早川町奈良田と南アルプス市芦安芦倉を結ぶ「早川・芦安連絡道路」の建設が現実味を帯びてきている。この路線は一年を通した利用が可能となるものとして構想されている。つまり、早川上流奥地の「秘境」として認識されてきた奈良田は、町外へのアクセスが飛躍するばかりでなく、観光立町を目指す早川町における新たな〝入り口〟として、その位置づけも大きく変わる。

©YUKI UEHARA

 

『奈良田盆踊り復活祭』にシンポジウムの企画を当て込んだのは、このイベントが近年の盛り上がりを途切れさせないことばかりでなく、この社会状況変化に対して〝奈良田らしさ〟を基盤とする地域づくりがいかに進められるべきか、それを問い直す絶好の機会とタイミングだと考えたから。
パネリストには、白樺会前会長の深沢守さんのほか、井上真先生(早稲田大学・人間科学学術院教授)と山川志典さん(筑波大学・人間総合科学研究科世界文化遺産学専攻・博士後期課程)にお願いした。

守さんには、これまで民謡と踊りの保存・継承に尽力してきた経験から、近年の白樺会の躍動に対する想いを引き出したい。そして井上先生と山川さんには、それぞれ社会環境学と民俗学の観点から、海外や国内他地域の事例も踏まえつつ、伝統的で固有性の高い民謡と踊りが、地域で継承されていく意味と価値について、奈良田集落への示唆をいただけるものと期待している。

そして私たちは、なんとしてでも踊りを続けて、いつでも夢見心地に、10年後の奈良田の姿に思いを馳せよう。
それがここで暮らすことを決めた僕たち家族の、住民としての基本姿勢。

 

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文・イラスト(線画):上原 佑貴
イラスト(色付け):アンティラ美織
構成:ことり舎

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「白樺会の軌跡」

「やまだらけ」82号

「やまだらけ」82号
白樺会の軌跡(2017年9月)
発行:上流文化圏研究所

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